九州の熊本で、ある夜のできごとじゃった。
鎮守の森のお祭りを控えて、
村の衆から金を預かった一人のおっさんが、
お神酒を買いに、村外れの酒屋にやってきたんじゃ。
トントン
「夜分すんまへんな。お神酒買いに来ましてんけど(なぜか大阪弁)」
「ああ、せいべえはんでっか。ええ酒おまっせ。帰りに飲んだりしたらあきまへんで」
「わしは、まぁ、酒すっきゃけどな、そんなことしまへんがな」
月明かりに照らされ、自分の影を見ながら、ぼちぼち家路に向かってると、
両手に持った徳利から、お酒のいいにおいがしてきたんじゃと。
「一口くらい、ええやんな? 誰も見てへんやんな?」
ぐびっ
「これは、うまいわ。ええ酒やわ」
ぐびっ、ぐびっ
せいべえ、いつの間にか、お神酒に手を出してしもうた。
「♪じゅうごやぁ、お〜つきさ〜ま〜、みて、は〜ね〜る〜♪ っと」
ほろ酔い気分で、道端の木陰を見ると、人影のようなものが見えた。
「おぅ、そこに突っ立っとんは、だれじゃ! 出てこんか! われぇ!」
せいべえがまくし立てると、木陰から現れたのは、大きな熊じゃった!
「ウガーー、酒よこせクマー!」。せいべえ目掛けて突進してきた。
「これはワシの酒じゃ、熊ごときに飲ませられるかっ」
「ウガーー、酒クマー!」
クマーがせいべえに右パンチを食らわせようとした、ちょうどそのとき、
白いあご髭を生やした赤鼻の神様が、一人と一頭に割って入って、
手にした杖を振り上げながら怒鳴り始めた。
「この、バカもんが! そりゃ、ワシの酒じゃ! 」
「おっさん、誰か知らんが、酒を買ったんは、このワシや!」
「お前の金とちゃう言うねん!」
「ウガーー、酒クマー!」
三人は、お酒をめぐって、取っ組み合いながら醜い戦いを繰り広げたんじゃが、
人も熊も神様には勝てるわけがなかろうの。
怒り心頭の神様は、罰として、せいべえと熊を月に上げてしもたんじゃと。
「ワシの酒、台無しにしやがって、お前ら、二度と帰ってくんな!」
そうして、一人と一頭は、月の住民になってしもうたんじゃが、
せいべえが左手に持っていた徳利は、
いつの間にか「神酒の海」と呼ばれるようになったんじゃ。
それから、そう、後に熊の末裔は九州に住むことを許されなくなったそうな。
おしまい。
月の画像を処理していたら、月の模様が酔っぱらいと熊が戦っているシーンに見えてきた。もう、そうにしか見えなくなってしまって、へんな昔話が頭に浮かんできた。でも、どの満月の写真を見ても、この昔話の絵ように見えるようなら、案外、適当な絵ではなくなるかもしんない。
というのも、別にうさぎでもカニでもいいんだけど、月の地形を人や動物のパーツごとに分解して覚えられるというメリットは大きい。実際、酔っぱらいと熊のおかげで、月の地名とその位置を随分と楽に覚えられた(間違ってたらごめんね)。
熊の顔 = 雨の海
熊の鼻 = 腐敗の沼
熊の鼻先 = アペニン山脈
熊の腕 = 島の海
熊の右手のひら = 蒸気の海
熊の右耳 = 虹の入江
熊の左耳 = プラトンクレーター
熊の踏み出した右足 = 雲の海
熊の左足 = しめりの海 (熊もびびっておもらしした)
熊が出てきた木陰 = 嵐の大洋 (嵐の前の静けさ)
せいべえの顔 = 晴れの海
せいべえの背中 = 静かの海
せいべえのケツ = 豊かの海
せいべえ左手の徳利 = 神酒の海
せいべえ右手の徳利 = 危機の海
熊の左腕は何というところ? せいべえの股間にあるクレーターは? と疑問も湧いてくる。
ちなみに、せいべえは上野御徒町にある「本格味噌拉麺ライス専門店」さん。「ぶたみそ」がうまい。
この記事へのコメント
オヤジ
こういうのは、星雲なんかにも落書きして、面白い星雲名を付けてる方も居て面白いですよね。(笑)
あぷらなーと
言われてみると、熊にしか見えなくなってきました。
けむけむ
そーか、そーゆーことで、九州に熊が居なかったのかぁ。
にゃあ
にゃあ
にゃあ